漢方薬について
漢方医学は西洋医学と異なったアプローチによって病気を治していく治療です。西洋医学は病気の原因を追求し、病気の原因をなくしていくことで治療をしていきます。これを原因療法といいます。痛みがあればその原因を取り除くことによって痛みをなくすことができます。
しかしながら、病気というものは例えばストレス性のものなど原因がはっきりしないものも少なくありません。これに対して漢方医学では、病気の原因というより病気の状態を重視します。例えば冷えて痛みがでているなら体を温めることで痛みをとっていきます。このように体のバランスを上手く調整することによって体の不調を治し元気にすることで病気を治していきます。ある意味究極の対症療法と言われています。
「かしわや薬局本店」ではツムラ、クラシエ合わせて100種類程度の漢方薬を備蓄しております。漢方薬は薬剤師がご相談させていただいて、自費で購入することもできますし、症状によっては提携医療機関をご紹介もさせていただきます。お気軽にご相談ください。
また、漢方薬の最も簡単な理論を誰でも分かるように紹介していきます。是非参考にされてください。
気血水について
漢方医学の考え方に気血水というものがあります。これは病気は「気」と「血」と「水」のアンバランスによって病気が起こるという考え方です。漢方薬は複数の生薬の混ぜ物ですので、構成される生薬が気血水にどのように作用するのかによってその漢方薬をおおまかに理解することができます。
1.気
「気」とは目に見えない生命エネルギーのようなもの。西洋医学的な精神に比べるとずっと範囲が広く、抑うつ気分やイライラといった精神症状だけでなく、消化吸収、新陳代謝から細胞の動きまで「気」が関与していると考える。食欲も「気」によって左右されるという考え方から胃腸に効果のある漢方も気に作用すると考えられている。
「上衝(じょうしょう)」
「気」の上衝:イライラ、のぼせ、ほてり、血圧上昇、ヒステリー傾向など
頻用生薬:桂皮、麦門冬、柴胡、釣藤鈎
使用処方の例:桂枝湯類、苓桂朮甘湯、釣藤散、抑肝散、五苓散
「気欝(きうつ)」
気鬱:抑うつ気分、気持ちがふさぎこむ、不安、咽頭閉塞感
頻用生薬:厚朴、蘇葉、香附子
使用処方の例:香蘇散、半夏厚朴湯、柴朴湯
「気虚(ききょ)」
気虚:やる気がでない。食欲が無い。何となくだるい。元気がない。
頻用生薬:人参、黄耆
使用処方の例:参耆剤(じんぎざい)/補中益気湯、十全大補湯、半夏白朮天麻湯など。四君子湯、六君子湯
2.血
「お血と血虚」
「血」は血液に相当するもの。血が足りない状態を血虚といい顔が青白く貧血気味、皮膚乾燥などが起こる。血が滞っている状態をお血という。月経困難など月経異常や性周期に伴う体調不良、舌が暗褐色となり、皮膚に斑点状の血液のうっ滞を認める。
ただし、血虚もお血も同じ生薬が効果を示すので厳密に区別する必要はないと考えられる。
お血に頻用される生薬:牡丹皮、桃仁、大黄、当帰、川きゅう、芍薬
使用処方の例:
(実証)桂枝茯苓丸、桃核承気湯
(虚証)当帰芍薬散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯
血虚に頻用される生薬:当帰、芍薬、川きゅう(センキュウ)、地黄
使用処方の例:四物湯類(十全大補湯、当帰飲子、きゅう帰膠艾湯)
3.水
「水」は血液以外の体液をさす。水が過剰になっている状態を「水毒」という。西洋医学では「水」は利尿剤を使って体内水分を外に出すだけだが、漢方での「水」はもっと広い意味での体内での水分のアンバランスを改善させる。例えば脳浮腫を起こしている水やめまいや耳鳴りの原因になる内耳にたまっている水を移動させてその症状を改善させたりすることができる。これは体全体に分布する水を通す穴(アクアポリン)に漢方薬が促進的、あるいは抑制的に働くことで作用を発揮すると考えられている。こういった働きの薬を利水剤と呼ぶ。
「水毒(すいどく)」
水分が内耳にたまってめまいを起こしたり、胃にたまった水が逆流を起こして鼻水、喀痰を起こしたりする。
頻用生薬(利水剤):茯苓、朮、沢瀉、猪苓、半夏、麻黄、桂皮、附子、黄耆
使用処方の例:五苓散、柴苓湯、猪苓湯、小青竜湯、六君子湯、半夏白朮天麻湯、防已黄耆湯、真武湯、当帰芍薬散、苓桂朮甘湯、八味地黄丸、苓甘姜味辛夏仁湯、桂枝加朮附湯
「かわき」
水分が足りないと喉の乾燥から咳がでたり、皮膚乾燥からかゆみが生じる。
頻用生薬:麦門冬、石膏、荊芥、知母、粳米
使用処方の例:麦門冬湯、滋陰降火湯、竹茹温胆湯、当帰飲子、白虎加人参湯
寒熱と水の関係
漢方の処方の選び方としては証をみることが大切とよく言われているが実際に証によって効果が違ったというエビデンスは少ない。小柴胡湯などは感冒症状に効果は見られたものの証は効果に影響しないという試験結果も出ている。しかし、温めるのと冷やす薬については誤治療を避けるために必要である。
上記のように虚実という左右方向より温めるか冷やすか上下が重要。寒熱の方向性が合っていれば体にとって何らかの望ましい反応がある。
寒は陰陽の陰、ならびに水と関係が深い。熱は温、陽や渇きと関係が深い。つまり冷えが強いときは水が多すぎるということである。逆に乾きが強いとは水が足りない状態と見る。この水のバランスを適正状態を保つことが治療の目標になる。
上記の状態を適正なバランスを保つためには、水を減らすか直接温めるかどちらかになる。水毒に使われる生薬は水をさばく働きをもつ。従って水をさばく性質をもつ利水剤は水毒を改善するとともに温める作用をあわせもつ。
温熱作用のある生薬)
桂皮 黄耆 遠志 乾姜 杏仁 厚朴 呉茱萸 五味子 細辛 山茱萸 山薬 生姜 蒼朮 茯苓 大棗 人参 半夏 白朮 附子 防風 麻黄
太字は利水剤
1温める漢方薬(真武湯)
これを利用した処方が真武湯である。真武湯(茯苓、芍薬、蒼朮、生姜、附子)は新陳代謝が低下した冷えの強い患者に用いられる。冷えが強い=水が多い病態に使われるため、そのほとんどが温熱・利水作用のある生薬から構成される。
真武湯で中心となる薬効をしめすのが附子である。附子は水分バランスを整える働きがあるが体の内側から温める作用が非常に強い。また治癒起点を作るという働きもある。これは例えば長年続く慢性痛などの発痛原因を動かし、固着した症状から離脱させて病を治すというものである。このため、漢方処方では附子は痛みの強い患者には量を増やしたり単独の附子を調合する漢方薬局、漢方医院も多い。
実証タイプには便秘の人が多いが、真武湯に使われるのは虚証で食べ物を長い時間体内においておけず下痢をするタイプに使われる。
新陳代謝が低下した状態によく使われるので、逆に新陳代謝の強い小児には附子の入った漢方薬は副作用がでやすい。真武湯、八味地黄丸、麻黄附子細辛湯、桂枝加朮附湯などは子供には使用されない。
温めるために利水作用の強い生薬をたくさん含むことになった結果、めまいにも適した漢方薬となった。めまいに使われるのはこの応用である。
2温める漢方薬(当帰芍薬散)
当帰芍薬散はツムラ23番である。ツムラの使用目標は以下のようにある。
当帰芍薬散の構成生薬は利水(蒼朮、沢瀉、茯苓)+お血(芍薬、川きゅう、当帰)である。当帰芍薬散の使用目標がほぼ全て冷えや水に関係することと血に関係することになっていることが理解できる。また利水剤を多く含むことからめまいや耳鳴りにも効果を発揮する。
1)全身倦怠感、四肢冷感、頭痛、めまい、耳鳴り、肩こり、心悸亢進などを訴える場合。
2)無月経、過多月経、月経困難など月経異常がある婦人
温める漢方薬3(小青竜湯と苓甘姜味辛夏仁湯)
苓甘姜味辛夏仁湯(ツムラ119)は小青竜湯(ツムラ19)の裏処方と言われている。以下に構成生薬の違いを比較する。
生薬の機能 | 小青竜湯 | 苓甘姜味辛夏仁湯 |
---|---|---|
利水(温める) | 麻黄(マオウ) | |
利水(温める) | 桂皮(ケイヒ) | |
去痰 | 杏仁 | |
調整 | 甘草(カンゾウ) | 甘草(カンゾウ |
冷やす(水・血の補給) | 芍薬(シャクヤク) | |
温める&半夏のえぐみを消す | 乾姜(カンキョウ) | 乾姜(カンキョウ |
利水(温める) | 半夏(ハンゲ) | 半夏(ハンゲ) |
温める | 五味子(ゴミシ) | 五味子(ゴミシ) |
温める | 細辛(サイシン) | 細辛(サイシン) |
利水(温める効果はやや弱い) | 茯苓(ブクリョウ) |
苓甘姜味辛夏仁湯(ツムラ119)は冷えや水毒から鼻汁や鼻づまりがあって、小青竜湯(ツムラ19)の麻黄が飲めない患者に用いられる。利水作用が弱くなるので虚証の方でも飲める茯苓をかわりに使っているのが特徴。麻黄と桂皮はセットで使われることが多いため、苓甘姜味辛夏仁湯では両方とも入っていない。麻黄・桂皮がなくなると温熱効果が弱くなるので冷やす芍薬も除かれている。また苓甘姜味辛夏仁湯は杏仁を含むため、痰の多い咳嗽にも効果をしめす。
冷やす漢方薬について
乾きやのぼせなどが起こる場合は、逆に冷やす働きのある水が減っている(下図)
このとき、咳嗽、口やのどの渇き、のぼせ、うっ血などが起こっている。
冷やす漢方薬1(夜間咳嗽)
のどの渇きから咳がでることがある。特に布団に入ってから咳が出るような場合、体が温まることによってのどの乾きが生じ、結果咳がでると考えられる。このことから夜間咳嗽には麦門冬をはじめとして冷やす働きのある生薬が用いられる。
ツムラ93 滋陰降火湯
(蒼朮、地黄、芍薬、陳皮、当帰、麦門冬、黄柏、甘草、知母、天門冬)
ツムラ91 竹茹温胆湯
(半夏、柴胡、麦門冬、茯苓、桔梗、枳実、香附子、陳皮、黄連、甘草、生姜、人参、竹茹)
冷やす漢方薬2(口の渇き)
ツムラ34 白虎加人参湯
(石膏、知母、甘草、人参、粳米)
白虎とは石膏の別名である。強く冷やす働きのある生薬で、ツムラ28越婢加朮湯(関節痛)やツムラ55麻杏甘石湯(喘息)にも含まれる。
冷やす漢方薬3(充血・うっ血)
ツムラ15 黄連解毒湯
(黄ゴン 黄柏 黄連 山梔子)
黄ゴン、黄柏、黄連、山梔子は全て冷やす生薬。実証タイプで鼻血、出血、高血圧、のぼせ、痒みの強いじんましんなどに用いられる。山梔子は桂皮とともに精神を安定させる働きがある。
まとめ
冷やすか温めるかは水によって決まる。
つまり漢方治療とは水を動かすことによって治療することである。